空間を作り出す・大地の芸術祭9
アートって何だろね。この夏からずーーーっと考えてた。
越後妻有に通い始めた頃、通過するとある町で、あるポスターを目にしてた。
それはとても深みのある美しい青地に白抜きの漢字が1文字。文字の背景に薄めにキャッチが書かれている。そのキャッチというのも抽象的なもので、それ以外の説明や名称等は何もない。 一体何のポスターなのかは判らないが、美しい。
そして、それがひと集落のかなり多数の家の、目立つところに貼り出してあるのだ。
無数に貼られた美しいポスター。
何かを告知したいわけではない。それなら、貼っているという状況が何かを告げているのだろうか。インスタレーションのように?
あとで判ったけど、それは夏の総選挙に立候補している人のイメージポスターだったのだ。
それが何なのか判る選挙区民の間での、ポスター掲示。
アートとは無関係だったけど、確かにポスターが貼られていた時期、その集落には何らかの磁場のようなものが発生してた。
まさしくアートだよなぁ。
上と右の写真は中里通り山のリチャード・ウィルソン「日本に向けて北を定めよ(74°33’2”)」。ロンドンの作家自宅が方位そのまま、構造のみが出現してる。
この構造体と鳥居が作り出す空間も年月を経て熟成されてるよね。
風景を切り取って見せる作品4つ。左から。
中里桔梗原の内海昭子「たくさんの失われた窓のために」。このカーテン、会期中取り替えたりしてるのかな? すぐ汚れちゃうよね?
松代芝峠のフランシスコ・インファンテ「視点」。カメラになって自然を見てる気分。
十日町下条・神明水辺公園の伊藤嘉朗「小さな家‐聞き忘れのないように」。半地下の狭いスペースから対岸の1本の木を見つめる作品だけど、10年近く経てなにがなんだかわかりません(笑)
川西ナカゴグリーンパークの母袋俊也「絵画のための見晴らし小屋」。見晴らしというか見張り塔みたいだけど、ついつい入って覗いてしまう。
繭玉のようなものが無数に空中浮遊する木立。質感がなんともリアルで、思わず「なんでだよ~」と声をあげてしまうフシギ空間は松之山浦田の石田泰道「円環‐命脈」。作家はこの繭玉をボートにして糸魚川からフォッサマグナを南下してるらしい?
津南卯の木・なじょもんの小日向千秋「土中にて」は3つの四角い縦穴を掘って作り出した空間。縄文テイスト? 考古学ヲタ気味のうちの人がウホウホいってた。
松代城山、09芸術祭の話題作パスカル・マルティン・タイユー「リバース・シティ」。巨大な色鉛筆にはそれぞれ国名が書かれているのだが、ついつい、「この鉛筆、書けるん?」と即物的な感想を抱いてしまいました~。
川西仁田の三木俊治「里山交響曲/みんなおんなじ地球の子」。地図をもとに辿り着いたら神社があるばかりでポカーーン(゚д゚)としてしまったのだけど、なんと作品は散り敷いた落ち葉にまみれていたでござるの巻。地元の子供たちなどによって信濃川の石ころに刻まれた生き物が参道に埋め込まれてた。『鎮守』という言葉がぴったりくる包容力を感じさせる空間だったなぁ。さて、ダラダラと文と写真を載せてたらレポ9まできてしまった!
まだ載せてない作品もいっぱいあるけど、きりがないので大地の芸術祭2009レポはこのへんでフィナーレにしときます。
最後に、この芸術祭で私が好きな「空間」2つを。
十日町願入の古郡弘「胞衣 みしゃぐち」。
うぶすなの家の近く。
小高くなっている場所を掘って通路を作り、入り口を作り、回廊のある空間を作り出している。子宮を思わせるような包まれる感覚や、澄んだ敬虔な空気を感じさせる場所だ。
廃屋となった民家の梁や柱材が利用されている。
ここにいると、ほんとに穏やかな気持ちになるんだ。いわゆる、パワースポット。
今頃はすっかり雪で埋まっているのだろうか。
何回かの降雪と雪解けを繰り返して変わっていくこのみしゃぐちに、春になったらまた行きたいな。
(芸術祭開催期間中じゃなくても、↑ここや↓ここは存在します)
もうひとつは、中里倉俣のカサグランデ&リンターラ建築事務所「ポチョムキン」。
すぐ近くに小学校がある川沿いのここは、以前、ゴミなどが不法投棄されてたんだって。
そこに鋼材の囲いで作り出した子供たちの遊び場が、ポチョムキン。
う~ん、ポチョムキンって何なんだ。「戦艦ポチョムキン」とはなんの関係もなさそうだけど、何なんだろう何なんだろう…。
という疑問も、この空間に佇むとどうでもよくなる。
子供たちのためのブランコや、ひと休みして景色を眺める東屋。白砂が敷き詰められた静かで落ち着いた空間で時間を過ごしながら、隣の小学校が放課後になったら子供たちが来て賑やかだろうなと想像するのも楽しい。
美術館で見るアートもいいけど、私はこういう土地固有のアートが好き。
この地でしか、この時でしか味わえないアート。
アートによってその土地を知り、土地を知ることで味わいつくすアートの愉しみ。越後妻有の大地の芸術祭から始まったこういう野外アート展の波が今、日本あちこちに拡がってると聞く。
大がかりな野外アートに伴う地域振興という呼び声は、時には利権などの生臭いオプションも含むのだけど、会期中、立ち寄り温泉で一緒になったおばあちゃまの話が印象的だ。
地元を離れた大学生の孫はいつも盆正月にほんの数日帰るだけだったのに、この夏休みはずっと帰省したまま。大学の友人たちが泊まりにきて、毎日野山を歩き回っているようだ。うちはまるで民宿になったみたいで大変だけど楽しい。
“大地の芸術祭のある故郷”が、越後妻有の人々に何らかのパワーを及ぼしていますように。
なお、芸術祭は3年後の2012年までお休みだけど、パブリックアートとして生きている作品もあるし、松代農舞台を中心としてアートイベントは随時開かれてます。雪遊び系イベントもあちこちであるみたい。公式HPをどうぞ。
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